「何でこうも付きまとうかな、お前は」
「何よ、不服?」
「呆れてんだよ、俺は」
「こんなに愛してるんだもの、一回振られたくらいで引き下がってちゃ女が廃るわよ」
「一回どころの話か?」
「うっ……うるさいわね!アルだって私のこと、嫌いじゃないんでしょ?」
「結婚する気はさらさらねぇがな」
自室のドアを開ける。ワンルームの室内は閑散としていた。明かりを灯し、ガベルはそのままカリナを伴って室内に足を運ぶ。ベッドの間際まで来るとカリナはその手を解き、先んじてそのベッドに座った。
「あー……久し振り、帰って来たって感じだわ」
「だからお前の部屋は別棟だって……」
「アルのいるところが、私の帰るところよ。あー……アルの匂いがする……」
言いながらカリナはベッドに横になる。そしてくすくす笑うと、
「何だかんだ言って、追い返さないくせに」
「部屋の外で暴れられたら迷惑だろ」
「無理やり送っても行かないじゃない?殴ったり怒鳴ったりもしないし」
「それで怯む女か、お前は」
言いながらガベルはその隣に座る。溜め息をついても、何故か口許は緩む。その女に勝てないことを彼は知っていた。というより思い知らされている。来訪はいつも突然で半ば無理やりだ。そして絶対に帰らない。だから許しているわけでない事も、同じく。
「アル」
体を起こしてカリナがその名を呼ぶ。機関内でもその名で自分を呼ぶのは古いなじみと上官の一部のみだが、最初にそう呼んだのは彼女だった。アストル、では長いし、余所余所しいから、と。
「……元気そうだな」
「ええ、とっても元気よ。アルは?」
「俺のほうは相変わらずだ。新型はどうだ?」
「やーねぇ、こんなところで仕事の話?無粋よ」
ガベルの言葉にカリナが唇を尖らせる。ガベルは笑うと、
「んじゃ、こういうのはどうだ?ヨメに行く宛ての一つも出来たか?」
「何よそれ!貰ってくれない人の言う科白?」
カリナが本気で憤る。わははは、と笑い飛ばして、ガベルは言った。
「ばかやろー、お前みたいな女と誰が結婚するか!」
こんな感じでカリナとガベルは一応、お付き合いしているようである。ようである、というのはカリナが何度となく振られていると言うか、プロポーズを蹴られまくっているからで、単純に「婚約中」とか「恋人同士」とか、言えない感じからである。まあ一回はカリナがガベやん、振ってるんですけどね。それも何かアレな理由で。
ところでガベやん、カリナのこと嫌いなの?
「は?何言ってんだ今更」
だってさー、あんまりにも扱いが酷いんだもん。鬱陶しがってるしさー、可哀相じゃんよー。
「あの女に「可哀相」なんて言葉が引っかかる隙がどこにあるってんだ?」
いやそんな、呆れ顔で言われても……。
「てかアルはカリナが大事すぎて、結婚できないんだよなー、なー?アル」
おや、貴方は「トリオGの万年発情男」シロ・グランド中尉(外見設定オーランド・ブルーム・白でお願いします)じゃないですか。てか何それ。
「何それも何もよー……」
「オイシロ、余計なこと言うな」
ガベやん焦ってますね、まあいいや。シロ、何その「大事すぎ」って。
「ん?言葉のまんまだよ。んなこたねーと思うんだけどよ、こいつ、自分がもし帰れなくなったら、とか思ったらしくてよー、尻込みしちまいやがんの、そーゆーのに」
あー……そうなんだー……へー……。
「シロ、余計なことを……」
「まあ俺も、その辺は解ってやらなくもないけどよー……何か腑に落ちないんだよなー」
腑に落ちないって……ガベやんの「結婚しない理由」が?
「それもだけど、コイツこんなガタイとツラとビビリ加減のくせに、変にモテるんだよなー」
へー……ってかそりゃ君よりモテるでしょうよ。
「なんで?俺外見「オーランド・ブルーム・白」なんだろ?」
うんまあそうなんだけどさ(笑)あんた性格っつーか、仇名からして……というか、普段の態度からして絶対女性受けしないじゃん。彼女出来てもすぐ浮気するし、誰にでも声掛けるし、何て言うの?しまりがないし……まあ行状が悪くてもその外見だからねー、女の子も引っかかっちゃうよねー……。
「そんななぁ俺のせいじゃねーよ。引っかかる方が悪い……」
あ、機関内特別倫理委員会のお姉様方が現れた。シロ、達者でねー(連れ去られるので見送りながら手を振ってみる)で、ガベやん、モテモテなんだ?
「……俺はそんなことは知らんぞ」
そんなこと言って、返答のタイミングずれてるよ。そう言えば『LACETTELE0056』(前作?イベントでしっかり販売中。主役はフェーン)でアークちゃん、振られたって言ってましたね。振ったんだ?
「振るも何も……そう思ってないんだ、仕方ないだろう」
タイプじゃなかったの?年下の可愛い女の子なのに。十歳くらい下だっけ?
「アークは……悪い奴じゃないし、見た目も小綺麗で、パイロットとしても優秀だし頭も悪かない。けど俺にはそういう相手じゃなかったんだ。仕方ないだろう」
あーそれは、タイプじゃないとか年下がダメだとか、そういうことではないんだ?
「あのなぁ……言いにくい事を聞いてくれるなよ……」
じゃあカリナさんは?何がダメなの?
「お前……今ここでシロの馬鹿が言った事、聞いてなかったのか?」
ああ、大事すぎて、って言うアレ?聞いてたけど、それってただの逃げ口上じゃん。確かに何かあった時に、ってのはあるけどさ、それで一緒にならないって言うのは、相手から逃げてるってことでしょ?
「まぁ……そうだな……」
逃げてるんだ?なんで?
「そりゃ、俺がビビリの小心者だからだろ」
しれっとした顔で言うなよ、恥だろ、それ。
「しょーがねーだろ、そうなんだからよ。別に誰に何言われても、俺は構わんぞ」
カリナに対して気持ちがない、ってことは?
「あいつは俺の二年後に入ってきたんだ、ここに」
は?何、いきなり。てか、二年後ってことは、ガティと同期なんだ?
「そろそろ十四年か……ここ何年かはあいつはドゥーローにいる方が多かったし、そういうこともなかったが……あいつとはずっと、ミネアでもここでも一緒だった。偶然だろうけどな」
ああ……現場ですか……まあそうだろうね、カリナは整備士だからね。
「俺は外に出てドンパチやって帰るだろ、で、カリナは後詰だ」
うん。で?
「その間に、パイロットもエンジニアも含めて、何人死んだか知れない。俺達は運が良かったんだ」
……だから何?
「俺とあいつは、ただそういうだけじゃねーんだ。戦友、みたいなもんかな」
ふーん……何ニヤニヤ笑ってんの、てか、これはノロケか?もしや。
「まあな」
……何か腹立つな。それで、何なの?結局ガベやんはカリナのこと、どう思ってるの?
「どうって……話聞いてりゃ解るだろ?そんななぁ」
えー、解んないよー(笑)どうなの?どんなんなの?わくわく。
「だから……俺はビビリの小心者なんだよ」
それはさっき聞いた。だから結婚しない、ってのも。
「解ってんじゃねぇか……そういうことだよ」
カリナのことは大事だけど、大事すぎて身動きが取れない、って?
「まぁ……当たらずとも遠からず、かな」
……何かビミョーな顔して笑ってますけど、おっさん。別にカリナ本人聞いてないんだから「愛してる」とか「最高の女」とか、言ってもいいと思うんだけど……。
「馬鹿言え、そんなこと言ったなんて知られてみろ、また厄介な事になるだろうが」
あ、そうなの?例えばどんな?
「毎晩宿舎の部屋の前で待ち伏せされる」
あーそんなの、可愛いじゃん、ご飯作ったり掃除したりしてくれるんでしょ?
「いちいち鬱陶しいだろうが、そんなの」
あ、ひどーい、アル、それはひどーい!
「それに……俺はビビリで小心者だからな……毎晩待たれて、帰れなくなったら、困るだろ」
あー……それは、解るかなー……でも、その辺のことだけしか考えてないみたいにも、見えるけどなー……。
「確かに俺はあいつを愛してるよ。そんななぁ自分が一番解ってるさ。あいつがいなきゃそれなりに寂しいし、こんな風にしてても、他に男ができたら、なんて思いたくもねぇよ。器もデカかないからな。それでも、俺が死んであいつが嘆く、なんて、そういうのだけは勘弁してくれ、って感じだな」
うーん……ガベやんデリケートすぎ……あーそうかそれでモテるんだ。あ、でも器も小さいか……。
「戦友が戦場で死ぬんなら諦めもつく。ここは戦場だからな。けど諦めても、哀しくないって言えば大嘘だ。ましてや結婚すりゃ夫婦だ。俺はカリナを、そういう目に合わせたくないんだ」
うんでも……カリナはその辺、解ってると思うけどなー……解っててそれでも、アルのこと好きなんだよ?
「有り難いことにな。半分は有り難迷惑だが」
……あんた本当に酷い事平気で言うね。
「しょうがねぇだろ、事実なんだからよ?」
まあ確かに、ハンガーで泣きながら「私と結婚しないなんて一生後悔するわよ、この戦闘脳筋馬鹿」とか叫ばれても、迷惑だけどさー……叫ばれる方も痛いと言えば痛いか……。
「その辺はお互い様だな」
……そんで結局、カリナのことは愛してる、とか言ったけど、どこをどのように、てか、女性としてどんな感じ?
「おいおい……酒も入ってねーってのにあいつを褒めろってか?無茶言うなよ……」
何、酒入ってたら褒めれんの?てかどんだけテレ屋さんなのよ、それは。
「いや……恥ずかしいだろう、普通」
カリナは恥ずかしくないみたいだよ?全然、全く。聞いてて腹が立つくらい。
「じゃあ聞くなよ、腹が立つんだろ?」
いや、聞きたいね。アルならカリナの自称「美少女時代」も知ってることだし、色々聞いてみたい……何?もっと近くに……耳貸せ?
「……………………なんだよ、あいつは」
あーごめん、耳近くに来たけど良く聞こえない。
「だから……綺麗だし……その……」
わーアル、顔が真っ赤だー……って、え?
「…………………………だし(以下特別倫理委員会の検閲により削除)なんだよ」
……あー……はいはい、ノロケ……ノロケっつーか……検閲入っちゃったけど……そういうことをシロに聞かれたら、とんでもないことになりそうね。へー……相思相愛って言うか、何だかんだ言ってそーゆーことでもあるんだー……別れられないわな、確かにな。でもそれだとカリナってすごい「都合のいい女」なんだけどなー……。
「っ……だからそれはオマケであって、俺はちゃんと、その……気持ちはあるし、こんな状況でなかったら、というか……」
あ、しぼんだ。ガベやん、ごめん、ちょっといじめすぎた。本当にカリナのこと好きなのね、解った、解ったからほら、しぼまない。あーもー……本当に器の小さい男だな、お前は。
「お前に言われたかねぇよ」
あーごめんなさい、ごめんなさい、とりあえずごめんなさい。とにかくごめんなさい(誠意のない感じ)
まあそんなわけでガベルとカリナはお付き合いしている、というような感じなのであった。何だか色々複雑に事情があるようではあるが、当人同士がよければ全てよし、としておきたいと思う。
「何よ、全然良くないわよ!だって愛してくれてるなら籍くらい入れてくれてもいいじゃない!子供くらい産ませてくれたっていいじゃない!」
「出来なきゃ産めないだろ、子供は」
「何よ何よ!大体アルに何か言う権利なんかあると思ってるの?」
「てか、俺は未だにお前がどうしてそこまでしつこいのか、理解できないんだけどな」
「それでまた「今更」とか言うわけ?それでまた逃げる気?冗談じゃない!大体アルは……ちょっとアル、聞いてるの?」
……すまないアル、勝手にやっててくれ。カリナをどーにかできる人間なんてそうもいやしないよ、多分。
「だろうな。宇宙広しと言えども、こいつの相手が出来るのは俺くらいなもんさ」
「ちょっとそこ、人を無視して話を進めないの!」
終(笑)