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松川(まつかわ)
源流へ、’91年釣行記録より。
私は、釣友のM君と、午前2時30分に自宅を出発した。前日の大雨をもたらした台風も過ぎ去り、天気はよさそうだ。車は順調に目的地の飯田市に向かって闇の中を走り続る。
今回の目的地は、長野県飯田市の松川の源流へ、大型のイワナを求めての釣行である。「松川」は、中央アルプスの念上岳に端を発し、数々の支流を集めて天竜川に注ぐアマゴ・イワナの宝庫である。途中に松川ダムがあり、このダムより上流部が非常に険しく魚影も濃い。
やがて車は「昼神温泉」を過ぎ、国道を折れ、上流の入渓地点に到着した。時計を見ると午前4時30分である。夜明けまでは、まだ少しあるので私たちは。車を降り外に出てみた。ここは標高が約千メートルくらいあり、ふと夜空を見上げるとそこは満点の星空。今にも手が届きそうな星空にしばし見とれてしまいました。しかし、もう秋はそこまで来ています。急に肌寒さを覚えて車の中に逃げ込みました。うっすらと明るくなっていく東の空を見上げながら、朝食のおにぎりをほおばりながら本日の釣行に期待を寄せる。
渓流釣りのよさは、日頃のごたごたから逃れて、渓流・渓魚と戯れれば自然の力の強さと人間の力の無さを感じながら、いつしか時間の流れも止まり、そのまま自分も自然に解け込んでいくのです。
さて、朝食をすませ素早く釣り仕度をし、林の中を一気に下り、河原に降り立った。この川はこの年三回目の釣行である。過去二回はいずれもいい思いをさせてくれており、特に最初の釣行ではいきなり34.5ゼンチのアマゴが釣れて慌てたことがある。これは今は剥製となり、私の部屋を飾っている。
前日の雨のせいか少しささ濁りで普段より倍の水量があり、流れも速くなっているので注意をして川を渡る。仕掛けをセットしミミズのエサでまず第一投。いつもながら最も緊張する一瞬だ。しかし、アタリはなく、ふとM君を見ると丁度釣り上げたところで、こちらを見てニッコリ微笑んでいる。しかし、それから二人共アタリがなくなったので、もう少し上流へ向かう。河原を見るとカモシカらしき足跡があり、まだ新しかったのでまわりを見渡したが姿はなかった。以前この上流でいきなり落石があり、見上げるとカモシカの仕業であった。
次第に谷深くなり、渓相もよくなってきた所で二人竿を出す。うまく仕掛けを流れにのせると、一瞬、目印が止まり上流へ動き出す。すかさず合わせと、鋭い引きに面食らう。慎重に手元に引き寄せ、タモですくいあげると26センチオーバーの丸々太った良型のイワナであった。
M君も私の少し上流で良型が掛かったらしく、竿が大きく弧を描いている。腰を少しかがめて、魚を取り込むM君の姿が秋の日差しに映え、絵になっている。二人は交互に釣り上がり順調に良型を魚篭に収めて、顔を見合わせニンマリ。
しかし、私はその後、途中で愛竿を根掛かりで折ってしまい、今度はガックリ。気を取り直して予備の竿で次の淵を狙う。そして、なんと今度はM君が大淵で、尺上のアマゴを掛けたが、格闘の末に竿を折られて逃げられてしまったのである。なんとも二人共どうしたことか、顔を見合わせまたまたガックリ。まあこんな事もあるさとお互いに慰めあうのであった。

そろそろ昼食の時間になったので、流木を集めて焚き火をし、釣り上げたイワナを塩焼きにする。この美味さは別格で何物にも例え難い絶品の味だ。昼食を済ませた私たちは再び上流へ超大物を狙い向かうことにする。途中、難所を高巻で幾つか超えた所で、大きな地響きがした。見ると直径1〜2m程の岩が落ちてきたところであった。前日の雨で地盤がかなり緩んでいるのだろう。しかたなくここで納竿とする。
今回は超大物を釣ることができなかったが、少し紅葉の始まった深い谷間で、十分に釣りを満喫することができた。禁漁になる時期ももうすぐである。来年はきっと大物を仕留めるぞと想いをめぐらせながら、二人ゆっくりと煙草に火をつけた。そして、午後4時、互いに腰魚篭の重みの心地よい感触を楽しみながら夕日の松川を後にした。


<良型のイワナ達>
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